ひろしま美術館(広島県広島市)で開催された、かこさとしの世界展の最終日に駆け込んできました。小さいお子さんは意外と少なかったです。
さて、かこさとしさん。『だるまちゃん』の絵本や『からすのパンやさん』などを描いた絵本作家で、科学や理科の絵本も多く出版しています。
でも、かこさんについて詳しく知ったのはつい最近のこと。NHKの番組『プロフェッショナルの流儀』に取り上げられたのをきっかけに、「子どものために」という強い使命感を持って活動してきたことや亡くなる直前まで絵本の制作に取り組んでいたことを知りました。しかも、本業は作家ではなかったらしい!?
展覧会では、その辺りにもしっかり触れられていたので、備忘録も兼ねて書き記しておこうと思います。
かこさんや絵本について詳しく知りたい方は、公式サイトに詳しく紹介されています。
戦争への悔恨から子どものための活動へ
展示は三つの部屋に分かれていました。第一展示室で見られるのは、幼少期〜青年期、本格的に絵本を描き始める前の作品です。
子どもの頃から絵が好きで、近所のお兄さんに教わりながら絵を描いていた、かこさん。この頃からかなりの腕前で、小学校で6年間をまとめた挿絵つきの文集を任されるほどでした。周りの観覧者からも思わず驚きの声が上がります。中学校に進んでからは、飛行士になりたかったけど、視力が悪くなり断念したというエピソードも紹介されていました。
しかし、終戦後、かこさんは軍人を志したことに深い自責の念を覚えたそうです。そして、大学の演劇研究会で子どもたちのために脚本を書いたり、セツルメントという活動のなかで、バラックに住む子どもたちに絵の指導をしたり紙芝居を作って見せたりしていました。
ほぼ日刊イトイ新聞の特集の中でも、詳しく触れられています。
正確な描写と自然の鮮やかな色
ところで皆さん、かこさんが兼業作家だって知っていました?
大学卒業後、昭和電工という会社で働きながら、セツルメント活動や絵本の制作をしていたんです。忙しい合間を縫って描いていたんでしょうね、会社の名前が入った紙や論文の下書きの裏に書かれた絵も展示されていました。最初の絵本が出版されたのが33歳の時で、退職が47歳なので、その期間は14年ほど。かなり長い期間ですね。
また、かこさんは東京大学工学部卒業で工学博士というバリバリの理系なのですが、それがよく分かるのが、科学絵本の原画類です。人間やキャラクターの絵は素朴で親しみやすい印象なのですが、建物や地球の内部を解説する絵は、とにかく正確でバースが狂っていない感じ。
色も再現性が高いというか、自然の空とか草とか、風景をそのまま持ってきたような優しい色でした。
思想や記憶を織り込んだ作品
作品の一つに、宇宙に星のように民芸玩具を散りばめた絵があります。その絵の中には「革命」とか「原爆反対」とか「恒久平和」だとか、そういう言葉が書き込んであるのです。
現代だったらちょっと躊躇してしまうような直球の表現。キャプションによると、大人と子ども、生活と思想を切り離さず、当たり前の営みの中で話をしてほしいという思いから、この作品を描いたそう。
他にも、後年発行された『カラスのそばやさん』は、お米を当たり前に食べられない時代や地域から連想して作られています。『だるまちゃん』の絵本では、沖縄の問題や東日本大震災をきっかけに制作された本があり、色々な想いや記憶が作品に反映されていました。
社会的な思想だけじゃなくって、思わずくすっと笑ってしまうエピソードも。
『だるまちゃんとてんぐちゃん』では、てんぐちゃんの持ちものを欲しがるだるまちゃんに、家中から似たものを探しかき集めてくれるお父さんが登場するのですが、実はこのシーン、かこさんのお父さんがモデルになっているのです。
キャプションによると「(息子が興味を持ったものを)早合点して何でも買ってくる」お父さんだったんですって。おっちょこちょいで子煩悩な姿が微笑ましい。
かこさとしさんの思想や思い出、そして何より次世代の子どもたちに向けるまなざしが読み取れる展覧会でした。絵本を読んで育った人にも、これから絵本と出会う人にも。
かこさとしの世界展
- 開催期間:2019年6月15日〜8月4日
- 開催場所:ひろしま美術館
- 広島県広島市中区基町3-2
巡回情報
- 2022年10月8日〜12月25日
- 群馬県立館林美術館
- 2022年3月5日〜4月3日
- 名古屋松坂屋美術館(愛知県)
- 2021年12月3日〜2022年1月23日
- 八王子市夢美術館(東京都)
- 2021年7月17日〜9月20日
- 福井県ふるさと文学館
- 2020年12月12日〜2021年1月31日
- 盛岡市民文化ホール(岩手県)
- 2019年10月30日〜11月18日
- 大丸ミュージアム<京都>
図録
『かこさとしの世界』加古総合研究所監修(平凡社)